人間が誕生する前から存在する「知」
ヴェーダはサンスクリット語で「知」を表します。ヴェーダは人間の創作物ではなく、人間が存在する以前から存在するものだとされています。
知性や知識である「知」が人間の誕生前から存在している事については考察を要するところかもしれません。この事は「知性は人間の専売特許ではない?」で書く予定ですので、興味のある方はご覧ください。ここでは人間の誕生前から「知」が存在しているというヴェーダの考え方を前提に話を進めていきたいと思います。
続きを読むヴェーダは、神々への礼拝、賛歌、儀礼、哲学、神話などからなる口伝が文献となったものです。ヴェーダの付随的知識として、医術、音楽と舞踊、建築術、弓術があり、補助学問として音声学、儀式、文法学、語源学、韻律、天文学・占星学(ヴェーダ占星術)が発展しました。
ヴェーダ占星術は、ヴェーダを擬人化した場合の「目」に相当し、ジョーティッシュと呼ばれます。ジョーティは「光、光体」という意味で、イシュは「知識、主」という意味です。
日本とヴェーダ占星術
日本文化とヴェーダ占星術には大きな繋がりがあります。ヴェーダ占星術における月の通り道である白道の27(あるいは28)星宿、太陽の通り道の黄道の12星座、そして9惑星の動きと吉凶に関する知識は、中国で「宿曜経」として編纂され、それを空海が日本に伝え「曜日」がもたらされました。この宿曜経を原典とする宿曜道は陰陽道と融合し、1870年(明治3年)に陰陽寮が廃止されるまで、官制の陰陽道は続いていました。また現代になって宿曜道と宿曜占星術は、密教寺院や占星術師によって復興されつつあります。
西洋占星術とヴェーダ占星術
占星術の二大潮流である西洋占星術とヴェーダ占星術・宿曜ですが、どちらの占星術も自分自身をより深く知るために有用です。
西洋占星術とヴェーダ占星術には、多くの共通点があり、また大きく違っている点があります。詳細については、すでに多くの書籍やWEBサイトで説明されているのでここでは扱いませんが、世界観・転生観・運命観の違いについては重要ですので説明をします。
世界観・転生観・運命観
一般的な西洋占星術は、物質的に成功・発展し、自我に幸福をもたらす自己実現を重視し、太陽(自我・社会性)を重視します。主たる星座=太陽星座です。そして輪廻転生を考慮しません。天体配置や惑星の運行状況が運命を決定すると考えます。
一方でヴェーダ占星術は、心や内面、意識の成長を重視するため、月(心、内面性)を重視します。主たる星座=月星座です。真我である魂が、身体に転生を繰り返す輪廻転生を前提としています。天体配置や惑星の運行状況が運命を象りますが、そのような天体配置に生まれたのはその人のカルマ(行為・業)によるという考え方です。
ヴェーダ占星術におけるカルマ
カルマの法則の原理はシンプルです。良い行いをするとそれがその行為者の良い運命となり、悪い行いをすると悪い運命として経験されるというものです。過去生や現在の生で行なったことが、その後の現在の生や来世で経験されます。「因果応報」や「原因と結果の法則」と呼ばれ、自分で蒔いた種を自分で刈り取ることになります。
何が「良い」行為であり、何が「悪い」行為であるかは、「共存共栄の関係」が基礎となっています。他者や社会・世界に利益や喜びをもたらす行為は良い行為であり、逆に損失をもたらし苦しめたり傷つけたりする行為は悪い行為です。これは人間同士や人間と動植物との関係ですが、一般的に私たちによって認識されていない「見えない世界」とも関係しています。
デーヴァタ(神々)と人間
ヴェーダが規定する世界構造の中で、デーヴァタ(神々)と人間の関係は、相互補完的・循環的なものであり世界の根幹をなしています。人間の心と感情が乱れると神々の世界が乱れ、天候パターンの崩れやさまざまな災害となって現れます。また神々は人間の「目」や「知性」、あるいは世界の「方角」や「特定の日時」など万物を司っていて、人間と神々、世界と神々は表裏一体の存在です。
デーヴァタは人間が「火」に捧げる「捧げもの」を「食物」とします。また人間はデーヴァタが降らせる「雨」からなる「食物」を得ます。火は上に上昇し、人間の行為によって物質的なものが精神的なものに変換されます。雨は下に降り、神々によって精神的なものが物質的なものに変換されます。
そして食物だけではなく、ありとあらゆるものが神々によって人間にもたらされます。人間はすべてを「捧げもの」として神々に捧げることができます。この世界における車輪を共存共栄的に回転させるための方法をヴェーダは伝えています。
レメディー(処方)
その人の過去の行為が形成した運命は出生時の天体配置によってわかります。占星学はそれをコードとして読み解く暗号学です。ですが、もし悪い運命が示されていた場合はあきらめるしかないのでしょうか?
蒔いた種は刈り取らなければならず、過去になした行為の結果を受け取らなければならないのが原則です。ですがヴェーダ占星術は、これから行なう行為によって、惑星を通してもたらされる過去の行為の結果を和らげたり無効にしたりするレメディー(処方)を伝えています。
レメディー(処方)は、Ⅰ神々を賛美する詠唱や、Ⅱ神々への礼拝儀式、Ⅲ人間や動物への慈善行為(食べ物や富の寄贈)が代表的なものとして規定されています。特定のカルマに適した特定の正しい行為があります。
どのような儀式や詠唱、慈善行為が適切であるかはその人の星の配置によって変わります。「ヴェーダ占星術ヨゲンノトリ」では、鑑定後にレメディー(処方)を希望する方には、相応しいⅠ詠唱、Ⅱ礼拝儀式、Ⅲ慈善行為をお伝えします。Ⅱ礼拝儀式とⅢ慈善行為については、正当なヴェーダ科学に基づいた儀式典礼が毎日行われているヴェーダ総合施設「アヴァドゥータ・ダッタ・ピータム」のプージャ―(礼拝儀式)やアンナダーナ(食べ物の寄付・分かち合い)への代理申し込みも承ることができます。
日常生活で簡単に実践できるパンチャ・ヤジュナ(5つの祭祀)
レメディー(処方)としての方法は、ヴェーダの専門的知識がある程度必要とされる厳格なカルマ(行為)です。「ヤジュナ」とは、神へ向けて火に供物を捧げる専門的なヴェーダ祭祀を指します。ですが実際のところ「ヤジュナ」は、この世界を回転させていく人間のあらゆる「行為」を含みます。
専門的な儀式だけではなく、社会の中で仕事をしたり、家庭を営むことも「ヤジュナ」としての祭祀になります。語源的に「政治」の「政」が「まつりごと」であり、社会を営むことと神を祭ることを1つとみなす考え方と同じです。
毎日の生活の中で実践することができ、世界と自分自身を共存共栄させていくことができるカルマ(行為)となる「パンチャ・ヤジュナ(5つの祭祀)」があります。
- 神々への祭祀(デーヴァ・ヤジュナ)…毎日の食事を食べる前に神に捧げる
食べ物を食べる前にそれを神に捧げます。さまざまな祈り方がありますが、あらゆるものを司っている神々の存在を認知し精神的に捧げることが重要です。人間の1年は神々の1日に相当します - 先祖への祭祀(ピトリ・ヤジュナ)…毎日、自分に身体を与えた父母や先祖を思い出し感謝する
ピトリ(祖霊)は、亡くなった祖先を指しますが、父母や祖父母が生きている間は、彼らに感謝し彼らが喜ぶことをするのも先祖への祭祀(ピトリ・ヤジュナ)に含まれます。先祖を思い出し、感謝するやり方はそれぞれの文化によって少しずつ異なりますが根本は同じです。人間の1カ月は祖霊の1日に相当します。 - 生き物への祭祀(ブータ・ヤジュナ)…動物や虫たちに食べ物を分け与える
ペットを飼っている場合は、ペットに餌をあげることも生き物への祭祀となります。自分の食べ物の中から少しだけとって庭などに置き、アリや鳥、その他の動物や虫が食べられるようにします。 - 人間への祭祀(マヌシャ・ヤジュナ)…自分の家に来た人を誰でも歓迎し食事を出す
客として来た人に誰でも食事を提供することによって人間への祭祀を行なうことができます。慈善行為によって炊き出しをしたり、食事を配ったりすることも人間への祭祀(マヌシャ・ヤジュナ)です。 - 絶対的存在への祭祀(ブラフマ・ヤジュナ)…世界の根源である絶対的存在や真我について学ぶ
これは何か特定の宗教のことではなく、普遍的で唯一の根源的存在について学ぶことです。ヴェーダやプラーナ(ヴェーダ的神話)は、こうした絶対的存在について教えています。自分自身について学ぶことも、絶対的存在への祭祀となります。
良い運命を象るダルマ(正しい行為)
神々、人間、動物、植物、鉱物からなるこの世界を愛や調和の中で展開させていく正しい行為は「ダルマ」と呼ばれます。「ダルマ」は調和をもたらす生き方の術です。ダルマを守る人はダルマによって守られるとされています。
他の存在を傷つけないことである「非暴力」は代表的なダルマです。
また、重要な10のダルマがあり、①勇気を持つこと、②許すこと、③自制心を持つこと、④自分に属さないものを求めないこと、⑤純粋であること、⑥感覚を制御すること、⑦正しい知識を持つこと、⑧学ぶこと、⑨真実を守ること、⑩怒りへの忍耐とされています。
ヴェーダ占星術は、行為が象る運命を通して「ダルマ」を教えるものだと言えます。